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岡山地方裁判所 昭和52年(行ウ)8号 判決 1984年3月30日

岡山市福富西二丁目二三番四八号

原告

山上茂吉

右訴訟代理人弁護士

松岡一章

小林淳郎

岡山市天神町八番四七号

被告

岡山東税務署長

池田金一

右指定代理人

原伸太郎

一志泰滋

森盈利

吉平照男

長沢文雄

北脇重男

木梨昭三

土井哲生

徳永輝三

入江要次

主文

一  被告が昭和四一年七月一〇日に原告の昭和四九年分の所得税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定の各取消しを求める訴えを却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告と負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年七月一〇日に原告の昭和四九年分の所得税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

2  被告が昭和五一年一一月一八日に原告の昭和四九年分の所得税についてした再更正のうち、分離長期譲渡所得金額二二七五万円とする部分及び納付すべき税額の六七万五一八〇円を超える部分、並びに同過少申告加算税の賦課決定のうち、同税額の五万三八四二円を超える部分をそれぞれ取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分の経緯等

原告は、株式会社福田種鶏場(以下「福田種鶏場」という。)の代表取締役であるが、昭和四九年分の所得税について、原告のした確定申告、これに対する被告の更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下、右更正を「本件更正」と、右賦課決定を「本件決定」という。)、増額再更正及び増額過少申告加算税の賦課決定(以下、右再更正を「本件再更正」と、右賦課決定を「本件増額決定」という。)、異議決定並びに国税不服審議所長がした審査裁決の経緯は、別紙課税処分表のとおりである。

2  本件処分の違法事由

本件更正等の本件各処分は、次のとおり、原告の昭和四九年分の所得税につき租税特別措置法(以下「法」という。)三七条一項一四号(特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例)の適用があるにもかかわらず、右適用がないとして分離長期譲渡所得が二二七五万円であるとしてなされたものであるから違法である。

(一) 原告は、小原亀との間で、昭和四七年一月三〇日同人に小作地として賃貸していた別紙物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という。)につき、賃貸借契約を合意解約し、同年三月二七日右引渡しを受け、同年五月一日宅地への地目変更登記した。

(二) 原告は、中庄観光株式会社(以下「中庄観光」という。)との間で、昭和四七年五月ころ、買主側の設計による建物を原告において本件土地上に建てたうえで、中庄観光が丸正製粉株式会社(以下「丸正製粉」という。)の代表取締役柾本隆雄から資金の協力を得て右建物とともに本件土地を買い受ける旨の売買予約(以下「本件予約」という。)を締結した。

(三) その後原告は本件予約に基づき、昭和四八年一月に別紙物件目録記載(二)の建物(以下「本件建物」という。)の建築工事に着手し、同四九年四月右工事を完了し、同年八月三〇日本件土地を中庄観光に、本件建物を丸正製粉にそれぞれ代金二五〇〇万円で譲渡した。

(四) 原告は、福田種鶏場との間で、昭和四八年六月、福田種鶏場において、同社の名をもってふ卵機四セット(以下「本件ふ卵機」という。)を購入し、これを後に原告の所有に移す旨の委任契約を締結した。

(五) 福田種鶏場は、右委任契約に基づき、株式会社大宮製作所(以下「大宮製作所」という。)との間で、昭和四八年六月三〇日、本件ふ卵機を二八〇〇万円で購入する旨の契約を締結し、同日契約金として小切手で二八〇万円を支払い、同年一一月一四日に内金として約束手形で八四〇万円を支払った。

(六) 原告は、福田種鶏場に対し昭和四九年八月三〇日前記委任契約に基づく本件ふ卵機構入費として、本件土地代金として中庄観光から交付された同社発行の約束手形二五通(額面合計二千二五万円)を引き渡し、本件ふ卵機の所有権を取得した。

(七) 原告は福田種鶏場に対し、昭和五〇年七月一日本件ふ卵機を賃料月二五万円で賃貸した。

(八) 以上のとおり、原告は小作地として事業の用に供していた本件土地を昭和四九年八月三〇日に譲渡し、譲渡した日の属する年の一二月三一日までである同年八月三〇日に買換資産である本件ふ卵機を取得し、右取得の日から一年以内である同五〇年七月一日に本件ふ卵機を賃貸して事業の用に供し、譲渡による収入金額(二五〇〇万円)が買換資産である本件ふ卵機の取得価額(二八〇〇万円)以下である場合であるから、法三七条一項一四号により、本件土地の譲渡がなかったものとして課税されないこととなる。

3  本件土地譲渡による分離長期譲渡所得を除くと、原告が昭和四九年分の所得税として納付すべき税額は、六七万五一八〇円となり、また同年分の過少申告加算税も五万三八四二円となる。

よって、原告は請求趣旨記載のとおりの裁判を求める。

二  被告の本案前の主張

増額再更正処分をした場合は、当初の更正処分の効力が増額再更正処分に吸収されて、当初の更正処分は消滅するのであるから、請求の趣旨1項の請求は消滅した課税処分(処分が存在しない。)の取消しを求めるものであり、訴えの利益を欠き不適法である。

三  右本案前の主張に対する原告の答弁

原告は併存説により、当初の更正処分の取消請求は、再更正処分があっても訴えの利益を失わないと解するので、双方の処分の取消を求める。

四  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1は認める。

(二) 同2のうち

(1) (一)のうち、原告が小原亀から本件土地の引渡しを受けたのは、昭和三七年一月三〇日ころである。その余は認める。

(2) (二)は否認する。

本件土地は、原告の二男である山上晋作の分家用の建物を建築するために、小作人小原亀から引渡しを受け、その地上に本件建物を建築し、原告の家族のための宅地として利用されていたものである。しかし譲渡当時原告が代表取締役となっていた福田種鶏場の経営状態が不良であったため、急きょ当初の計画を変更し、本件土地を中庄観光に、本件建物を丸正製粉に売却した。

したがって、本件土地は、譲渡時点まで原告の二男晋作の分家用居宅敷地として利用されていたものであるから、法三七条一項の事業用資産にはあたらない。

(3) (三)の事実中、原告が、小原亀から本件土地の返還を受けた後、その地上に本件建物を建築して、昭和四九年八月三〇日に本件土地を中庄観光に、本件建物を丸正製粉にそれぞれ代金二五〇〇万円で譲渡したことは認め、その余は否認する。

(4) (四)は否認する。

(5) (五)のうち、原告との委任契約に基づく点は否認し、その余は認める。本件ふ卵機の購入者は福田種鶏場である。

(6) (六)は争う。福田種鶏場は、右(五)のとおり本件ふ卵機の代金を支払った後、経営不振に陥ったので原告に対し、昭和五一年二月二八日、右支払額から減価償却費四一万三二八〇円を控除した一〇七八万六七二〇円の代金で、本件ふ卵機を譲渡したものである。

(7) (七)、(八)は否認する。

(三) 同3は否認する。

なお、被告は当初本件ふ卵機を原告が購入して、これを福田種鶏場に賃貸したこと、本件ふ卵機が法三七条一項一四号に規定される買換資産であること及び本件ふ卵機の福田種鶏場への賃貸が同条にいう「事業の用に供したとき」に該当することを自白したが、右自白は、真実に反しかつ錯誤に基づくものであるからこれを撤回する。

すなわち被告は、原告の被告所部係官に対する説明及び提出資料により当初右認否をなした。しかるにその後被告において本件ふ卵機の購入状況、代金の支払方法、搬入及び組立の経過などを詳細に調査したところ。前記資料はいずれも昭和五〇年一〇月ころ原告が大宮製作所に依頼し作成させた内容虚偽の証憑であり、真実の右購入者が福田種鶏場であることが判明したものである。

2  被告の主張

仮に原告主張の事実が真実だとしても、次のとおり法三七条一項の適用はない。

(一) 固定資産である土地に販売目的で区画形質の変更を加えて宅地等とした場合又は土地の上に建物を建てた場合には、その固定資産であった土地はたな卸資産又はたな卸資産に準ずる資産に転化したものと解され、その資産の譲渡による所得は、たな卸資産又は雑所得の基因となるたな卸資産に準ずる資産の譲渡による所得として、その全部が事業所得又は雑所得に該当するとされ、このことは、すでに確立した税務の取扱いとなっている(所得税基本通達三三-四)。

原告の主張を前提とすれば、本件土地付建売住宅の譲渡は、いまだ事業に至らない程度の不動産の譲渡であるから「たな卸資産に準ずる資産」の譲渡であり、その所得は所得税法上、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得として雑所得に該当する。

したがって本件土地は譲渡された当時は「たな卸資産に準ずる資産」で雑所得の基因となる土地であったから、事業の用に供しているかどうかにかかわらず、法三七条一項所定の特例を受ける要件を欠くものである。

(二) 法三七条一項一四号にいう買換資産は、減価償却資産でなければならない。そして、建設又は製作中の建物及び装置等の資産は、減価償却資産に該当しないとされ(所得税基本通達二-一七)、本件ふ卵機は原告が取得した昭和四九年八月三〇日時点では三〇ないし四〇個に梱包されたままの部品にしかすぎず、未完成のものであったから、減価償却資産とはいえない。

したがって、本件ふ卵機が組み立てられたのが本件土地譲渡の日の属する年(昭和四九年)の一二月三一日後である昭和五一年二月二五日から同年三月一八日までであるから右買換資産に該当せず、本件土地譲渡につき法三七条の適用はない。

(三) 法三七条にいう「買換資産を事業の用に供した時期」の判定については、「建物、構築物ならびに機械および装置については、そのものの本来の目的のための使用を開始した日による」(法通達三七-二三)とされているところ、原告の主張による本件ふ卵機を賃貸した時点(昭和五〇年七月一日)においては、右ふ卵機は前記のとおり部品のまま貯蔵された状態であり、それが組み立てられたのは、昭和五一年二月二五日から同年三月一八日までであるから、右取得の日(原告主張によれば、昭和四九年八月三〇日)から一年以内に本件ふ卵機を本来の目的に供していないこととなり、右要件にも該当しない。

五  被告の主張に対する原告の反論

1  被告の主張(一)は争う。

「たな卸」とは、本来企業会計上の用語であって、期末決算整理のため現在ある商品、または製品・半製品・仕掛品・原材料などについて調査し、期末一定時のその手持ち高を調べることであって、所得税法上の「たな卸資産」の概念も、また所得税法施行令と法施行令の「準たな卸資産」の概念も、右の「たな卸」の観念に基づいて理解せられるべきものと考える。

そうすると、本件のように農地であった土地を、不動産の売買業者でも賃貸業者でもない単なる地主であった原告が、小作人から返還を受けて、これを一回でただ一人の買主に売却する場合にたとえこれに区画形質の変更を加えて宅地に造成しても、あるいはこのような宅地造成行為を加えないでも、本件土地の譲渡は、「たな卸資産」の譲渡にはもとより、右二つの施行令のいずれの「準たな卸資産」の譲渡にもならないこと明らかと考えざるを得ない。

2  同(二)は争う。

本件ふ卵機はフランスで製造された機械を購入したもので、原告がこれを取得した昭和四九年八月三〇日には、組み立てれば、稼動する状態にあったから、製作中の機械とは異なり、すでに収益を生み出す源泉となり、使用又は時間の経過によって価値の減少する状態になっていた機械といわなければならないので、減価償却資産というべきである。

3  同(三)は争う。

法施行令二五条によれば、貸付けにかかる不動産や機械を相当な対価を得て継続的に貸し付けていることが「事業の用に供し」ていると解せられるのであり、貸付けを受けた企業において、その不動産や機械を現実に使用したり稼動させたりしていることが「事業の用に供し」ていることではないと考えざるを得ない。けだし、不動産や機械の貸付けを受けた企業が、これを使用したり稼動させたりしているか、あるいは、空地にしたり稼動させないで在庫品として保管したりしているにすぎないかは、その企業の都合によるものであるので、それによって貸付けをした者が法の特例を受けるか否かが左右されることは不合理であるからである。

仮に法三七条の「事業の用に供した」という要件を具備していなくても、原告が本件ふ卵機を取得した昭和四九年八月三〇日には、本件ふ卵機は一年以内には稼働させられ、又は使用される見込であったから、法三七条の「事業の用に供する見込みであるとき」の条件を具備しているので、同条の特例の適用を受けるための要件に欠けるところはない。

4  被告の訴訟行為の信義則違反ないし権利濫用

被告は、

(一) 本件更正(及び本件決定)は、後に行われた本件再更正(及び本件増額決定)に吸収され、消滅したとの、本訴の前提である本件審査裁決には載せられていない主張を本訴で持ち出し、

(二) 本件ふ卵機を原告が取得したことを自白しながら、これを撤回し(撤回については異議を述べる)、

(三) 本件ふ卵機が法三七条一項一四号の買換資産で、同条にいう「事業の用に供した」ことを自白しながらこれを撤回したものである(撤回については異議を述べる)、

以上のような、訴訟当事者となった一般国民でもなすことのまれな、訴訟上の禁反言の原理に違背し、また訴訟促進義務に違背した訴訟行為を、国の機関である被告が度重ねているのであって、その目的とするところは、国が法を定立して事業用資産の買換えについての特例を認めた精神を没却して、国の機関でありながら何が何んでも原告に対する課税を強行しようとするものである。したがって 被告は、訴訟行為における信義則に違反、権利を濫用するものというべきである。

六  前記五4の主張に対する被告の反論

被告の本案前の主張が、禁反言の原則、訴訟促進義務とどのように結びつくのか明らかではない。また訴訟促進義務をいうのなら、吸収説がほぼ確立した判例理論であることから、原告の方こそ当初更正それ自体を争う法的利益は全くないのにいまだにこれを争うこと自体右義務に違背する。

さらに買換資産である本件ふ卵機については、特例の適用を受ける要件が存在しないとの被告の主張は、前記四ノ(三)の事由及び本件訴訟の経過に基づきなしたものであり、時期に遅れたものでもないし、さらに訴訟の完結を遅延させるものでもないので、禁反言に違背したり、信義則違反、権利濫用の非難はあたらない。

第三証拠

訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

(本案前の主張について)

一般に増額の再更正及び右賦課決定に当初の処分をそのままにして脱漏した部分だけを追加するものではなく、再調査により判明した結果に基づき課税標準を決定して行われるものであるから、右増額の本件再更正及び本件増額決定が行われた場合、当初の本件更正及び本件決定は当然消滅するものと解すべく(最判昭和四六年九月二日訟務月報一七巻一〇号一四七頁外参照)、したがって右取消しを求める訴えはその利益がないので、却下を免れない。

(本案について)

一  請求原因1の事実及び原告が、小原亀との間で、昭和四七年一月三〇日、同人に小作地として賃貸していた本件土地につき、賃貸借契約を合意解約し、その後本件土地の引渡しを受け、同年五月一日には本件土地につき宅地への地目変更登記をしたこと、原告が本件土地の返還を受けた後、その地上に本件建物を建築して、昭和四九年八月三〇日に本件土地を中庄観光に、本件建物を丸正製粉にそれぞれ代金二五〇〇万円で譲渡したことは当事者間に争いがない。

二  原告は、本件土地の右譲渡による譲渡所得につき、法三七条一項一四号の適用があると主張するので判断する。

1  右争いない事実に、成立に争いない甲第一一号証、乙第一五号証の一ないし二一、証人長岡晃の証言により成立が認められる乙第一六ないし第二〇号証並びに証人角南宏介、長岡晃の各証言を総合すると、原告の昭和四九年度確定申告につき、分離長期譲渡所得が本件土地売買について法三七条適用により○との申告により、所轄の岡山東税務署の桑原事務官がまず原告に面接調査したところ、原告は二男の分家を建てるため小作地を返して貰い、宅地造成して家を建てたが、原告の会社の資金繰りのため譲渡したとの言分であったこと、その後一〇月(昭和五〇年)に入り大本税理士より物件は貸家として建てたが資金繰りに困って譲渡したので事業用になるとの申告があり、本人と税理士の言分が違うところから、右桑原事務官及び角南事務官が上司の命により再度原告に面接の上調査したところ、原告からは前回同様分家として建てたとの申告があり、本件建物についても見分したところ、庭園付の立派な建物であって貸家とは見られず本人の言分が正しいものと判断したこと、そこで角南事務官より原告に対し直接、前記経過を述べて、事業用とは認められないので法三七条の適用は出来ない旨を伝えたこと、原告からはその際本件土地は三年前迄小作地として事業に供していたのでその点を十分考慮してほしいとの申立があったこと、当時原告からは当審で主張しているような小作地を返還して貰った点点で買主より建物の設計を示され売買予約ができていたとの申出は一切なかったこと、前掲同五一年八月二〇日付原告の本件更正に対する異議申立(理由は本件建物が分譲住宅である旨当審主張と同じ)に基づき、前同税務署の長岡事務官が調査に当ったが、まず同五一年一〇月四日原告の弟であり本件売買の仲介者である訴外金光繁夫に面接し、同人は原告から二男晋作を分家さすための宅地を造成し家屋を新築したが、資金繰りの関係で併せて譲渡したいので良い買手を世話してほしいとの話があり、友人の柾本勝に話をした旨述べ、右聴取書(乙第一七号証)を作成したこと、引続き同年一〇月六日右実質上の購入者柾本勝(成立に争いない甲第七号証によれば購入時の中庄観光の代表取締役、右調査時前に死亡)の妻柾本操に面接し、昭和四九年九月始めころ(即ち前記契約直後)亡夫から家を変えるから引越の準備をするよう話があった、家屋の建築のことや間取り等のことについて亡夫より何も聞いてなく、突然のことでびっくりした旨の事情聴取をしたこと、丸正製粉の代表取締役柚本隆雄には同年九月中ころ及び一〇月一四日の二回面接し、同人は二回共本件土地、建物は同四九年六月ころ、金光繁夫氏より兄が二男のため家を新築したがいらなくなったので買ってくれないかとの要望により買受けた旨述べており、二回目に右聴取書(乙第一八号証)を作成したこと、原告の二男山上晋作については同年一〇月二九日同人は父の原告から同四七年五月ころ私のために分家の家を建ててやるとの話があった、家の外形が完成したころと思うが、私が入居出来なくなったと話があった、会社の資金繰りの関係で他に譲渡することになったものと思う旨述べて右聴取書(乙第一九号証)を作成し、更に同年一一月一日同人が前回の申立を補足したいとして同税務署に自ら出頭し、子供のころ祖母より本件土地に私の分家を建てれば家の近くで良いと話をしていた、父より入居出来なくなったと話があったが、私自身は居住する意思がなかったのでほっとした旨述べた外ほぼ前回同様の供述をし、右聴取書(乙第二〇号証)を作成したこと、なお金本繁夫は同年一〇月下旬ころ前回話したことは表向きのことで、本件建物は柾本勝の求めに応じて建てた分譲住宅である旨原告の主張に浴うよう言い直したことがそれぞれ認められ、他に右認定に反する証拠はない。

2  ところで原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告は本件土地には柾本勝の設計、指図によって本件建物を建築したものであり、唯不動産業者から営利目的にすると審理が長くなると言われ、また農業委員からも売却することでは認可が難しいと言われ、転用目的を二男の結婚による分家建築の趣旨とした、また私から誰に尋ねられてもそのように答えてくれと頼んでいたので、皆が同じように言っている旨供述する。しかし成立に争いない甲第一七号証の一、二、乙第一一号証によると、本件土地付近は既に昭和四六年九月七日岡山県告示第七五四号よより市街化区域となったものであり、原告自身同四七年二月五日付で農地法五条一項三号による右転用の届出をなしていることが認められるところであって、右許可を要するかの如き言分自体これと矛盾するものであり、そのためにあえて転用目的を偽つたとの趣旨の右供述はにわかに信じ難いものがある。また原告が右分家建築である旨答えるよう依頼したいたと言うけれども、前掲、金光繁夫、柾本隆雄、山上晋作に対する税務職員の右聴取は前記昭和五一年八月二〇日付原告の分譲住宅建築を理由とする異議申立後の同年一〇月以降になされたものであって、右日時の経過からみると不自然であり、前記認定の経緯に証人柾本隆雄、山上晋作の各証言を対照すると、むしろ同人らの原告の主張に沿った各供述内容の変更にこそ作為が感じられるところであつて、これをにわかに信用し難い。

3  以上によれば本件建物は原告の二男晋作の分家用住宅として建築された事実を肯認し得るものであり、したがって本件土地は、中庄観光へ譲渡されるまで、右敷地として利用されていたものであるから、本件土地の右譲渡が法三七条に言う「事業の用に供している資産」の譲渡の要件にあたらないことは明らかである。

三  原告は被告の訴訟行為には、信義則違反ないし権利濫用であると主張するが、本件訴訟の経過等に照らしても、被告の訴訟行為に信義則違反ないし権利濫用の事由があるとは認められないので、原告の右主張は理由がない。

四  結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、本件更正及び決定の取消しを求める訴えは訴えの利益がないのでこれを却下し、本件再更正及び増額決定の取消しを求める請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川鍋正隆 裁判官 大濱惠弘 裁判官西口元は転官につき署名押印できない。裁判長裁判官 川鍋正隆)

課税処分表

<省略>

物件目録

(一) 所在   岡山市福富西一丁目三六九番三

宅地   六六五・二六平方メートル

(二) 岡山市福富西一丁目三六九番地三 所在

家屋番号 三六九番三

構造   木造瓦葺二階建居宅

床面積  一階 一五八・八〇平方メートル

以上

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